PEEKピーク
PEEKは、極めて耐性に優れた樹脂素材で、厳しい環境下でも卓越した機能を発揮します。
半導体、化学プラント、エネルギー関連などの産業分野では、厳しい環境においても機器の高い信頼性が不可欠です。
八十島プロシードは高度なPEEK樹脂加工技術を有し、これら様々な産業分野向けに、バルブ・継ぎ手・パッキン・絶縁部品などのPEEK樹脂加工部品を提供しています。
以下では、PEEK樹脂の優れた特徴とその産業分野での利用用途について、詳細に解説いたします。
また、高い信頼性と耐久性が求められる環境で、PEEK樹脂がいかに重要な役割を果たしているかも併せてご紹介します。
PEEKとは
PEEKは「Poly Ether Ether Ketone/ポリエーテルエーテルケトン」の略で、スーパーエンジニアリングプラスチック（スーパーエンプラ）に属する熱可塑性樹脂です。高い性能を誇り、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性、難燃性、力学的特性、電気的特性などが顕著であり、半導体、航空宇宙、電気電子、医療、石油・ガス、食品などの幅広い産業分野で広く採用されています。
厳密には、PEEK樹脂はPAEK（Poly Aryl Ether Ketone/芳香族ポリエーテルケトン）樹脂の一種であり、アリール基・エーテル基・ケトン基から構成されています。アリール基とケトン基が剛性や耐熱性を提供し、エーテル基が柔軟性をもたらします。PEEK樹脂の種類や特性は、これらの基本構造の組み合わせや配列によって異なります。
PEEKは1978年に英国のインペリアル･ケミカル･インダストリーズ社（現ビクトレックス社）によって開発され、特許を取得。1981年に商品化されました。なお、八十島プロシードはビクトレックス社製のPEEKを使用しています。
PEEK以外のPAEK樹脂も開発されましたが、その他のPAEK樹脂はPEEK樹脂の優れた性能に比べて劣るため、結果的に開発中止となりました。そのため、PEEKがスーパーエンプラの主流となりつつあります。ただし、高価な素材であるため、一般流通は限定的です。八十島プロシードではPEEK材料のカット販売も行っています。
PEEKの特徴
このように、PEEKは優れた樹脂素材であり、その高性能が様々な分野で注目されています。ここではPEEKの主な特徴に焦点を当てて詳しく見ていきましょう。
耐熱水性
PEEKは、連続使用温度が260℃（UL746B）と樹脂最高クラスであり、熱水にも強く、耐加水分解性も兼ね備えています。
融点は343℃で、200～250℃のスチーム中でも連続使用が可能。
但し、ガラス転移点は143℃、荷重たわみ温度は152℃（1.82MPa）のため、用途により注意が必要です。
耐薬品性
PEEKは高温・高圧環境下で塩酸、硫酸、フッ酸、硝酸などの強い化学薬品を使用する業界でも採用されるほどの耐薬品性を備えています。
耐熱性に加え、有機溶剤に不溶かつ、濃硫酸以外の薬品には溶解しない特性があります。
低アウトガス
PEEKは光エネルギーや熱、真空中でのアウトガスが少なく、宇宙機での搭載実績があります。
機械的特性・耐摩擦摩耗性
PEEKは幅広い温度帯で高い機械的強度を発揮します。引張強度と耐衝撃性が高く、さらに充填剤を添加した強化グレードもあるため、軽量化を目的とした金属の代用として使用されることもあります。
また、強化グレードでは広範囲の摺動条件に対して、使用条件によってはPIに匹敵する耐摩擦摩耗性を発揮します。
難燃性
PEEKはアメリカで最も権威ある安全試験及び製品検定証明機関であるULの規格UL94において、最高の難燃等級V-0（1.5mm厚）に適合します。また、燃焼時の発煙や有毒なガスの発生が少ないため、安全性が高いです。
耐放射線性
PEEKのガンマ線に対する耐性は熱可塑性樹脂の中で最高レベルです。絶縁破壊に至る放射線量が1100Mrad以上と良好な耐放射線性を有しております。
食品安全性
PEEKは、食品衛生法に適合し、FDA（食品医薬品局）規格を満たすグレードがあり、食品加工機械や医療機器にも採用されています。
このように、PEEKはその卓越した特性により、様々な分野で広く利用されています。例えば、以下のようにフッ素系樹脂をPEEK樹脂に変えただけでも様々な面で大きな効果改善が確認できました。
「熱の影響を受けにくいため、シール性が向上」
食品製造設備のシール部品にPVDFを使用していたが、熱収縮を起こし寸法が不安定になっていたところ、PEEK（ナチュラルグレード）に変更することで寸法が安定。シール性の向上を実現！
「危険物の漏れ防止とコストダウン」
塩酸を製造する設備のライニング押さえにPTFEを使用していたが、加圧押さえとしては硬度が不足していたため、PEEKに変更。また、材料ロスを考慮し、PEEKの溶接加工を行うことでコストダウンを実現！
「部品の長寿命化で作業効率UP、メンテナンス頻度DOWN」
バルブボールのシール材にPTFEを使用していたが、高温、高圧下での使用で部品寿命が短く頻繁に交換を行っていた。PEEKに変更することで、部品の長寿命化によるメンテナンス頻度の減少を実現！
「摩耗を抑えて、面倒な部品交換回数が大幅減少」
有機化合物を生成する設備の軸受けにガラス入りPTFEを使用していたが、軸受けに結晶物が食い込み摩耗を促進させていた。摩耗に強く、蒸気滅菌にも耐え、熱による歪みの少ない材料を求められていたためPEEKをご提案。摩耗による部品交換の頻度が減少し、生産効率の向上を実現！
ただし、PEEKには高価であるというデメリットや高い強度ゆえの加工の難しさも考慮する必要があります。八十島プロシードは、これらの課題にも対応できる高度なPEEK樹脂加工技術を有し、お客様の要求事項に合わせたPEEK製品加工をイメージ画や現物確認からも行っています。
八十島のPEEK樹脂加工技術
高精度切削加工
PEEK樹脂の特性、加工形状に基づいた加工工程、加工条件を選択し、お客様の要求事項に合った製品の加工を行います。
また、切削加工だけでなく、造形品の後加工など、様々な先端加工技術の融合により、今までにない製品の製造を実現します。
溶接溶着加工
耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性に優れるPEEK樹脂の高精度溶接・溶着加工を行っています。
※八十島の切削加工技術についての詳細はこちら
PEEKグレード・規格サイズ
通常、「PEEK」の表記だけでは基本グレードを指します。しかし、PEEKには基本グレード以外にも、さまざまな充填剤を添加した多様なグレードが存在し、それぞれ異なる用途に利用されています。
例えば、ガラス繊維や炭素繊維を混ぜることで強度や剛性を向上させたグレードや、PTFEやグラファイトを混ぜることで摺動性を向上させたグレードなどがあります。これにより、PEEKは幅広い特性を持ち、異なる要件に対応できる素材となっています。
八十島プロシードでは、さまざまな加工に対応する規格とグレードを幅広く取り揃え、お客様のニーズに最適なPEEK素材を提供しています。
標準グレード
| 板 | （長さ）1000ｘ（幅）500 5～60t（mm） |
|---|---|
| 棒 | （長さ）1000 Φ6～200（mm） |
カーボン繊維強化グレード
約30%のカーボン繊維が充填された強化グレード。
機械的強度、摩耗特性が向上。優れた耐疲労特性を持ちます。
| 板 | 5～20t（mm） |
|---|---|
| 棒 | Φ10～100（mm） |
スミプロイCK4600（住友化学独自のコンパウンド）
※その他各メーカーの材料もございます
ガラス繊維強化グレード
約30%のガラス繊維が充填された強化グレード。
剛性が高く、耐クリープ特性が向上。
| 板 | ～50t（mm） |
|---|---|
| 棒 | ～φ100（mm） |
摺動グレード
カーボン、フッ素、グラファイトが合計約30%充填された摺動グレード。
高い限界PV値と、高温下での優れた摺動特性を有します。軸受けやギヤ、ベアリングなど摺動部品に使用されます。
| 板 | ～50t（mm） |
|---|---|
| 棒 | ～φ100（mm） |
医療用グレード
生体適合性グレード他、複数のグレードがございます。
使用環境で材料選定が必要です。詳しくは専任スタッフがご対応します。
架橋型PEEK Arlon™3000XT
Arlon™3000XT（Greene,Tweed社の商標です）は、 高圧・高温下における優れた耐熱性を有します。軟化させることでシール性の向上を図れます。
| 板 | ～12.7t（mm） |
|---|---|
| 棒 | ～φ50.8（mm） |
上記以外にも様々なグレード、サイズがございます。お気軽にお問い合わせください。
PEEK素材の加工・ご提案に関するお問い合わせ、ご相談はこちら
※こちらでPEEKを含めた切削加工用材料の物性比較が可能です。PEEKなどのスーパーエンプラの物性を理解するのにもお役立てください。
PEEK樹脂用途例
- 半導体製造装置部品
- 液晶製造装置部品
- 洗浄治具
- 化学関連機器部品
- 精密機器部品
- 高絶縁端子
- 食品・飲料製造設備部品 etc
八十島プロシードのPEEK樹脂加工事例
ウエハガイド
| 加工方法 | 切削加工 |
| 材質 | PEEK |
| サイズ | 760×425×223（mm） |
| 分野 | 半導体 |
| 求められる特性 |
|
|---|---|
| 選定理由 | 一体では加工できないPEEK製ウエハーガイドも、溶接構造にすることで、ボルト締めでは不可能な残液問題も解決されました。 もちろん、PEEKは耐熱性・耐薬品性にも優れている為、各洗浄槽で使用されております。シリコンウエハーが50枚搭載されますので、溝ピッチ精度も非常に高く、安心してご使用頂けます。 |
ノズル
| 加工方法 | 切削加工 |
| 材質 | PEEK |
| サイズ | φ50×70（mm） |
| 分野 | 半導体 |
| 求められる特性 |
|
|---|---|
| 選定理由 | 耐熱性・機械的強度に優れたPEEKは極めて曲げ加工の難しい材料です。 |
マニホールド
| 加工方法 | 切削加工 |
| 材質 | PEEK |
| サイズ | φ80×430（mm） |
| 分野 | 半導体 |
| 求められる特性 |
|
|---|---|
| 選定理由 | PEEKの溶融チューブとPEEK切削品の組立で、PFAでは得られなかった変形のないマニホールドが実現致しました。小径チューブの溶接も当社技術であれば熱変形もなく、美麗な仕上がりと優れた精度を維持できます。 |
ウエハキャリア
| 加工方法 | 切削加工 |
| 材質 | PEEK |
| サイズ | 350×200×200（mm） |
| 分野 | 半導体 |
| 求められる特性 |
|
|---|---|
| 選定理由 | ウエハキャリアには、石英やPTFE等様々な材質が使用されていますが、PEEKを選択されることで、作業効率の改善や軽量化が可能となります。蓄積された経験と強度計算によるコスト低減のご提案、そして高い溶接技術と溝加工精度で設計者のご要望にお応えしております。 |
小惑星探査機：モーターケース
| 加工方法 | 切削加工 |
| 材質 | PEEK【認定規格：MIL-P-46183】 |
| サイズ | 50×40×20（mm） |
| 分野 | 航空宇宙 |
| 求められる特性 |
|
|---|---|
| 選定理由 | 宇宙空間では低アウトガス性と高温から低温までの幅広い温度領域での使用が求められます。ポリイミド同様PEEKはこれまで数多くのスペースエリアでの実績がございます。本製品は厳しい重量制限と薄肉加工での耐衝撃性の点からPEEKをご選定頂きました。 |
整形外科インプラント：Cage
| 加工方法 | 切削加工 |
| 材質 | PEEK（インプラントグレード） |
| サイズ | 22×10×9（mm） |
| 分野 | 医療 |
| 求められる特性 |
|
|---|---|
| 選定理由 | PEEK(インプラントグレード）は、インプラントとして認定されている樹脂で最も機械的強度に優れた材料です。またγ滅菌、オートクレーブ滅菌他、各種滅菌処理にも対応可能です。本脊髄インプラントは、体重に耐えられる機械的強度とＸ線透過性による手術後の骨融合の可視化が可能である点で採用されました。 |